2007年7月11日水曜日

講演会「メルヒェンの可能性」、盛況でした!

7月9日,本学小講堂にてドイツ語学科主催の講演会「メルヒェンの可能性」が開催され ました。講師は,ドイツの学術アカデミー付属メルヒェン百科事典編集所の代表,ハン ス−イェルク・ウター教授と,アウグスブルク大学のザビーネ・ヴィンカー=ピーフォ 教授のお二人で,ともにメルヒェン・民話研究では国際的に知られた研究者です。渡部 重美学科長のごあいさつのあと,さっそく講演会がはじまりました。 ウター教授は,「しあわせなハンス(KHM 83)」を題材に,物質的な富を得ることでは なく,心の赴くままに生きることに幸せを見出す主人公の特異性を浮き彫りにして, 人々がこの物語をどう読んできたのかを論じました。

講演の後半部では,ハンスがイラ ストやコマーシャルに描かれている様子を発表直後の1820年代からていねいに跡づけ ていました。 考えてみると,メルヒェンの主人公は,ほとんどが上昇志向を持っていて,富を得た り,身分が上の人間(王子や王女)と結婚することで幸せになります。ところがこのハ ンスは,そのまったく逆を行く存在で,最後は無一物になりながら,故郷の母のもとへ と喜びながら帰っていくのです。ハンスとは,上昇志向の「近代」のアンチテーゼとし て,「ポストモダン」な存在なのかもしれません。
ヴィンカー=ピーフォ教授の講演は,広範な知識を駆使して,メルヒェンや民話に描か れるお城のタイプを分類し,そこにある崇高の美学などから,現代のお城(高層タワー など)の意味までを探る意欲的な論考でした。とくに,皆さんもご存じのノイシュヴァ ンシュタイン城(1886年完成)のモデルとなったイラストが紹介され,この城のメル ヒェンとの関連が明確にされました。
1862年,当時一般的な物語メディアだった「一枚絵」に崖の上に立つ,たくさんの塔 がある城が描かれました。このイラストをもとに,同じ年の仮面舞踏会の舞台セットに 城が造られ,これをルートヴィヒ2世などが見ていて用いたのだ,との指摘。これはあ まり知られていない事実で,驚かされました。 メルヒェン民話研究の最先端にふれることができた,非常に内容の濃い講演会でした。 会場の35周年記念館小講堂には,140名を超える聴衆がおいでくださり(半数以上が外 部からのお客様でした),熱心に聞き入っておいででした。アンケートの結果からも, 非常に満足度が高かったことがうかがえました。 (ty)

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