2007年1月4日木曜日

春のうた

 毎年春、5月になると授業で流したくなる曲があります。《ローレライ》で有名なハイネが書いた詩に、R. シューマンが曲をつけた〈美しき五月に〉です。

Im wunderschönen Monat Mai,   美しい五月に
Als alle Knospen sprangen,   蕾がみな花開いたとき
Da ist in meinem Herzen   私の心に
Die Liebe aufgegangen.   愛が芽生えた。

Im wunderschönen Monat Mai,   美しい五月に
Als alle Vögel sangen,   鳥がみな歌ったとき
Da hab ich ihr gestanden   私は彼女に打ちあけた、
Mein Sehnen und Verlangen.   私の憧れと望みを。

シューマンの歌曲集《詩人の恋》(作品48)のはじめに置かれたこの曲は、ピアノと歌が調和し、憧れに満ちたロマンティシズムをたたえたとても素敵な作品。5月とはいっても雨の降る日の授業ではかけたくないなぁなどと思っているうちに、時期を逸してしまう年もありますが、私の授業を履修しているみなさんは、きっと一度は耳にしたことがあるのではないかと思います。
 ドイツの春は突然にやってくるとよく言われます。イースター(Ostern)を過ぎ、5月になると一気に花が開き、若葉が茂ります。白アスパラガス(Spargel)も春の味覚!緯度の高いドイツでは、冬が暗くて長いだけに、春の喜びもひとしおなのでしょう。ドイツ語圏の音楽史をふりかえれば、中世以来、春を歌ううたはたくさん書かれてきました。たとえば、中世のミンネゼンガー、ナイトハルト・フォン・ロイエンタール(1180頃~1245頃)の “Meyenzeit one Neidt” や、モーツァルト(1756~1791)作曲の《春への憧れ》、ワルツ王と呼ばれるヨハン・シュトラウスII世(1825~1899)の《春の声》など。でも、留学中の私は、5月に一気に訪れる春よりも、少しずつ日差しに明るさとあたたかさの感じられ始めた頃、早春の野に咲くクロッカスやスイセンなどのかわいらしい花を見つけては、思わず微笑んで愛しく思っていました。ムスカリという小さな紫色の花が春を告げる花だと知ったのも、ドイツ留学中のことです。日本では冬といっても晴れる日も多く、明るいので(留学中、お正月に帰国したときに空の明るさにびっくりしました)、これほど春が待ち遠しく、春の訪れが嬉しい気持ちは、ドイツの冬を体験してみないと実感できないかもしれません。
 花の咲き乱れるドイツの春も素敵ですが、私がもっと好きなのはドイツの秋。それについてはまた別の機会に書きたいと思います。
S.K

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