2007年3月14日水曜日

仕事と子育ての両立めざすドイツの取り組み

 日本と同様、ドイツでも少子化が大きな社会問題となっています。その背景の一つに、子どもをもつ女性にとって働きやすい環境が整っていないという問題があります。最近(2007年2月)、ドイツ家族担当大臣が、保育施設を今の3倍に拡充するという計画を提案しました。しかしこの提案には、支持する声が多い一方で批判的な声もあがっています。こうした議論からドイツ社会の一つの特徴が見えてくるようです。

 今回の提案は、3歳未満を対象とする育児施設の受入数を現在の25万人から75万人へ3倍化することを主な内容としています。提案を行ったのは、家族・高齢者・女性・青年担当省の大臣ウルズラ・フォン・デア・ライエン女史(Ursula von der Leyen)です。この女性大臣は、博士号を持ち7人の子どもを育てながら政治家としてのキャリアを積んできた人で、以前はニーダーザクセン州という地方政府の社会問題大臣を務めていました。こうした経歴が注目され、2006年秋にメルケル内閣発足時に、家族・高齢者・女性・青年担当省の大臣に抜擢されました。
(同省ドイツ語HPの大臣紹介  http://www.bmfsfj.de/Kategorien/Ministerium/ministerin-persoenlich.html )

 今回の提案に対しては、歓迎の声がある一方、否定的な声も聞かれます。実は、ドイツはヨーロッパのなかでも男女の伝統的役割分業の意識が強い国の一つです。男性は外で働き、家事と育児は女性が担当するという価値観です。特に3歳未満の乳幼児は母親がつきっきりで面倒を見ることが理想とされており、3歳未満を受け入れる保育所は未整備のままです。たとえば西ドイツ地域では乳幼児数の17%の収容力しかありません(ただし東ドイツ地域は、旧東ドイツ国家のなごりから80%程度と高い)。その代わり、児童手当は充実しています。児童手当は、子ども一人当たり毎月154ユーロ(約22,000円)が18歳になるまで支給されます。国は、専業主婦として子どもを育てることにはお金を出して援助するのですが、働く女性が育児をしやすいような環境整備はほとんど行ってきませんでした。女性が働く条件は、子どもが学校に行くようになってからも続きます。例えば、学校は半日制が基本ですので、女性はお昼ご飯を準備しなければなりません。ドイツ語には、「キャリア女」 (Karriereweiber)とか、「カラスの母親」(Rabenmutter)という言葉があります。後者は、母親カラスがヒナの面倒をみないという迷信から来ているそうです。
 伝統的家族観と伝統的な男女役割分業という価値観は、キリスト教民主同盟・社会同盟(CDU/CSU)という政党に強く見て取れます。興味深いことに、今回の提案を出した女性大臣はキリスト教民主同盟(CDU)所属です。そのため、野党を含む他の政党から支持の声が聞かれながら、自分の陣営から否定的声が聞かれます。「これは育児を放棄することにつながる」「3歳児未満の育児は母親が必要だ」「専業主婦として育児に携わってきた人たちが差別され不利益を被る」といった声が聞かれます。
 しかしこうした否定的な意見は多数を占めることはないでしょう。少子化に歯止めをかけることが、経済と社会の健全な発展のために必要だという認識が高まってきていますし、高い専門能力をもつ女性の力が活かされないことは社会にとっての損失だという認識も強まってきたからです。全体として、原則的問題としては育児施設拡充という方向で進んでいきそうです。ただ実際に実現するかどうかは別です。今後、財源問題が焦点になってきます。財源をどこから持ってくるか、足りない時の増税をどうするかなどが問題になるでしょう。
 日本もドイツと同様に伝統的な男女役割分業が強く、これが女性の就業を妨げ、少子化の進行と密接につながっていると見られています。ドイツの取り組みを注目していきたいと思います。

(K.O.)

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