2013年12月19日木曜日

[PROST!]ドイツとドイツ語圏を知ろう(4)

ドイツ、オーストリア、スイス以外のドイツ語圏


●ドイツ語が公用語となっている国

ドイツ語圏の国々というと、今まで紹介してきたドイツ、オーストリア、スイスの3か国を思い浮かべる方も多いと思いますが、これら3か国以外にもドイツ語を公用語とする国があります。

一つ目は、ルクセンブルク(独:Luxemburg)です。ルクセンブルクは、フランス・ベルギー・ドイツに囲まれた人口約50万人の小国です。フランス語、ルクセンブルク語と並び、ドイツ語が公用語として指定されています。ちなみに、このルクセンブルク語は、ドイツ語の一方言といってもいいほどよく似た言語です。

二つ目は、リヒテンシュタイン(独:Liechtenstein)です。リヒテンシュタインは、ルクセンブルクよりさらに小さく、人口は約3万人です。スイスとオーストリアに囲まれています。公用語はドイツ語のみですが、日常的にはドイツ語の方言であるアレマン語が使用されています。

最後は、ベルギー(独:Belgien)です。ベルギーは昔からフランス語とオランダ語話者間の対立が存在し、「言語戦争」とも言われていました。その結果、使用言語によって言語境界線が引かれ、「フランス語共同体」「フラマン語(オランダ語)共同体」「ドイツ語共同体」という3つの言語共同体に明確に分かれており、各言語がそれぞれの地域の公用語となっています。ドイツ語共同体は、ドイツ国境付近に位置しており、ベルギーの総人口の約1%7万人以上)を占めています。


●ドイツ周辺でドイツ語が日常的に使用される地域

 ドイツ語が国の公用語となっていなくとも、地理的にドイツに近い地域では、ドイツ語が日常的に使われている場合があります。例えば、イタリアの南チロル(独:Südtirol)、フランスのアルザス=ロレーヌ(独:Elsass-Lothringen、アルザス地域圏とロレーヌ地域圏のモゼル県を含めた地域)が挙げられます。

南チロル

 まず、南チロルのあるボルツァーノ自治県(イタリア最北端)では、イタリア語、ドイツ語、ラディン語が県の公用語となっています。住民構成はドイツ系住民が多数を占めており、県民の総人口の約70%30万人)がドイツ語を母語としています。つまり、この地域のイタリア語話者はむしろ少数派となっています。
次に、フランスのアルザス=ロレーヌでは、昔と比較すると減少傾向にはありますが、家庭ではドイツ語を話す人々がいます。この地域は元々神聖ローマ帝国の支配下にあり、ドイツ語圏に属していたためドイツ文化の影響が色濃く見られます。例えば、木骨造(独:Fachwerkhaus)の家屋が多かったり、シュークルート(ドイツでいうザウアークラウトSauerkraut)が名物だったりとドイツ的な要素が残っています。
この他にも、ハプスブルク帝国やプロイセン王国の支配下にあった中欧、東欧の国々の一部でもドイツ語を話す人々が存在します。


ドイツの旧植民地であった国

ドイツも19世紀後半以降、他のヨーロッパ諸国と同様に植民地(例:ニューギニアの一部、カメルーン、ナミビア、トーゴ、サモアなど)を保有していました。しかし、第1次世界大戦に敗戦し、それらの植民地は英仏日などに分割されてしまったため、ドイツ語やドイツ文化の要素はあまり残っていないのが現状です。
その中で、ナミビア(独:Namibia)は、ドイツ語話者が比較的多く存在する地域です。ナミビアは、今でこそ公用語が英語、日常言語がアフリカーンス語となっていますが、1990年に独立するまではアフリカーンス語に並んで、ドイツ語が公用語として指定されていました。そのためか、街中でも英語、アフリカーンス語、ドイツ語の3言語で記載されている看板などを目にすることができますし、商業言語としてのドイツ語の地位も高いものであると言われています。また、料理に関しても、ドイツ風のパン、ソーセージ、じゃがいも料理などドイツの影響を感じることができます。


●ドイツ系移民の多く居住する地域

上で挙げた国々の他に、歴史的・地理的にドイツと強い関係がない国々でも、ドイツ系移民が多いなどの理由でドイツ語が話されている地域があります。例えば、アメリカのペンシルバニア州 (独:Pennsylvanien)や中央アジアのカザフスタン(独:Kasachstan)などが挙げられます。
ペンシルバニア州では、約25%の人々がドイツ系の祖先を持つとされています。こうしたドイツに起源を持つ住民は、フィラデルフィア以外の地域に居住しています。この地域で話されるドイツ語は、ペンシルバニアドイツ語、あるいはペンシルバニアダッチ(注:この「ダッチ」はオランダではなくドイツを指します)とも言われます。このペンシルバニアドイツ語は、様々なドイツ語方言が混ざっていますが、プファルツ地方で話されるドイツ語に似ていると言われています。また、ドイツ語はvの文字を[f]w[v]と発音するため、この地域の人々は例えば「wonderful violin」を「ヴァンダフル・フィオリン」と発音してしまう、などと言われたりもします(しかし、実際には訛りは非常に小さく、このようなイメージは観光のために誇張されたものでもあります)。
また、ロシア帝国時代にロシアへ移住したヴォルガ・ドイツ人と呼ばれる人々がいます。彼らは、ロシア革命直後に、ヴォルガ川沿いにヴォルガ・ドイツ人自治ソヴィエト社会主義連邦という自治共和国を建国します。しかし、1941年にスターリン政権に倒され、中央アジアへと追放されてしまいます。そのため、現在でもカザフスタンには比較的多くのドイツ系住民が存在しています。
その他には、南米のブラジル、アルゼンチン、アフリカのパラグアイなどにもドイツ系移民のコミュニティが存在しています。

英語やフランス語などの言語と比較すると、ドイツ語の通用地域は限られたものに感じるかもしれません。しかし、例えばEU域内では、最大の母語話者数を有する言語でもあり、最も重要とされる言語の一つでもあります(英語は第2言語話者も含めれば最大の言語となりますが、母語話者は多くありません)。さらに、インターネット使用人口約3%がドイツ語母語話者であり、英語、中国語、スペイン語、日本語、ポルトガル語につぐ第6の言語でもあります。また、全ウェブサイト中6%はドイツ語で書かれたものであり、これは英語についで第2位となります。ドイツ語が通用する地域ではないかもしれませんが、バカンス(独:Urlaub、ウアラオプ)好きなドイツ人は数週間のバカンスに出かけることも多いです(例えばスペインのマジョルカ島は人気の観光地です)。
このように、ドイツ語を勉強しておけば、意外なところ、思ってもみなかったところにドイツ人やドイツ文化との出会いが潜んでいるかもしれません。


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